沖田総司は恋をする
男は、僕と距離を置いたまま立ち止まる。

「……」

僕はその男を知っていた。

…この時代に来る直前、まさに刃を交える筈の男だったからだ。

長州派維新志士、吉田稔麿(よしだとしまろ)。

元治元年、祇園祭の風の強い日を狙って京都御所に火を放ち、その混乱に乗じて時の天皇を長州へ連れ去るという反乱計画、『京都大火計画』を画策していた人物の一人。

僕はこの時代に来る直前、吉田ら数名の維新志士が旅籠・池田屋にて、その京都大火計画の会合を開いているという情報を手に入れ、池田屋に向かっている途中だったのだ。

そういう意味では、この男は新撰組の宿敵。

そして僕の宿敵でもある。

「その様子だと、この時代が未来だという事を知っているようだな、沖田」

吉田は僕に鋭い視線を送る。

「大した世の中になったものだ。どうやら維新は成ったらしい。貴様ら幕府は…新撰組は敗れたという事だ」

「……」

挑発なのはわかっている。

だが、僕は悔しさに歯噛みした。

「さて…我々維新志士が勝つ事がわかっている以上、最早この時代に用はない。俺も何とか元の時代に帰る方法を探し出したいところだが…」

吉田は、スラリと腰の刀を抜いた。

「仇敵の貴様に遭遇したとあっては、無視して通る訳にもいくまい」

「……!」

この男…奈津美さんが側にいるというのに、僕を襲う気か!

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