沖田総司は恋をする
最早言葉もない。

僕は、膝が震えていた。

…今まで斬り合いでも、一人で大勢の志士を相手にしても、震えた事すらないこの僕が。

泣く子も黙る、新撰組一番隊組長のこの僕が…。

「沖田さん」

へきるさんの声で、僕はビクリと振り向く。

「私達は、貴方に危害を加えるような真似はしません…これは全て、私達の責任…私達には、貴方を元いた時代に戻す義務があります」

へきるさんに続いて、奈津美さんも僕の肩に触れて言う。

「心配しないで下さい。必ず元の時代に戻してみせます。それまで…ここを我が家だと思って暮らしていて下さい」

「……」

いきなり悪夢のような状況に放り出され、右も左も分からないような状況下で…彼女達だけが、僕の頼りだった。

「お心遣い…かたじけなく存じます」

僕は姿勢を正し、へきるさんと奈津美さんに頭を下げた。

新撰組局長の近藤さんや、副長の土方さん、そして年長の幹部の人達にしか下げた事のない頭を、女性に下げた。

「どうか何卒…よろしくお願いいたします」

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