沖田総司は恋をする
「でも!」

へきるさんが僕の肩に触れる。

「今のこの時代なら、労咳は…結核は不治の病じゃありません!今すぐ病院に行って診てもらえば、まだ治る可能性は…」

…その言葉は、とても甘い誘惑だった。

もし治す事が出来るのならば、僕はまだ生きられる。

自分の時代に戻り、やはり死ぬ事は避けられないとしても、戦って死ぬ事が出来る。

侍としての死に様を迎える事が出来る。

しかし…。

「へきるさん…僕の刀を持ってきていただけますか…それと僕の着物と…新撰組の羽織も」

「沖田さん!?」

僕の言葉に耳を疑う、とばかりに、へきるさんは叫んだ。

「今病院に行かなければ手遅れになるかもしれないんですよ!?」

「それ以前に」

僕はへきるさんを見る。

「僕が助けに行かなければ、奈津美さんが手遅れになるかもしれない」

「っ…」

僕の言葉に、へきるさんは息を呑んだ。

「…自分の命よりも…奈津美ちゃんを選ぶというんですか…?」

「……」

僕は無言で頷いた。

「僕の落ち度で奈津美さんは連れ去られました。ならば…奈津美さんを助け出すのは僕の役目です」

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