沖田総司は恋をする
羽織と着物、刀を沖田さんの所に持っていく。

「ありがとうございます、へきるさん」

私にそう言った沖田さんは、いつも通りの笑みを浮かべていた。

言葉を失ってしまう。

もしかしたら数時間後にも死んでしまう人間が、こんな風に笑う事ができるものなの…?

私は怖かった。

沖田さんが死んでしまうかもしれない事より、沖田さん自身が怖かった。

自己犠牲なんてものじゃない。

ここまで自分の身を何でもない物のように危険に投じられる人間がいるのか。

侍とは、新撰組とはそういうものなのか。

戦いに身を置く事とは、ここまで人間の精神を変えてしまうものなのか。

こんな年若い青年が、自分の命を軽々しく扱うなんて。

歴史でしか知らなかった幕末の動乱、そして歴史の中で幾度となく起こってきた争いそのものに、私は憤りすら覚えていた。





           




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