沖田総司は恋をする
立ち上がる沖田さん。

致命傷は避けたとはいえ、確かに胸は斬られたのだ。

新撰組の証でもある羽織に、鮮血が滲む。

呼吸は前にも増して荒くなり、表情にも疲労の色がよりはっきりと見え始めた。

それでも彼は、戦う事をやめようとはしない。

疲労困憊のまま、尚も剣を構える。

それは侍としての本能なのか。

それとも新撰組組長としての矜持なのか。

「…諦めの悪い事だな。昔から壬生狼(みぶろ。新撰組の通称)は退く事を知らん」

手傷を負わせた事で有利になった吉田が、勝ち誇ったように笑みを浮かべて言う。

それに対して。

「新撰組隊規、士道に背くあるまじき事…敵前逃亡は士道不覚悟…!!」

決死の覚悟と共に沖田さんはそう呟き。

「…!?」

今までとは違う構えを取った。

刀の切っ先を吉田に向け、腰を低く落とす。

…刺突。

剣道で言うところの『突き』を仕掛ける構えだ。

「ほぅ…」

吉田の顔色が変わった。

「知っているぞ。新撰組の隊士達は、突き技を得意とするという…勝負をかけにきたという訳か」

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