あたしのトナカイくん
「……38度6分。完全にアウトだろ、これ」



耳温計に表示された数字を見て、戸波くんはまたもや顔を歪めた。

あたしはソファーに横になりながら、いたたまれない気持ちでそんな彼を見上げている。


ここは、バイトのあたしは普段めったに入ることがない、事務室。

休憩室には横になれるところがないから、という理由で、あたしはここに連れて来られたらしい。

戸波くんははぁっと嘆息して、耳温計を机の上に置いた。



「あのさ、いい大人なんだから、自分の体調とよく相談したうえで、バイトも来るもんじゃないの?」

「え、だ、だって……最初全然、具合悪くなかったしっ」

「嘘つけ。更衣室から出てきた時点で、いつもより顔赤かっただろ」

「……え、」



ぽかん、としてしまったあたしを見て、「なに、ほんとに自覚してなかったの?」と彼は片眉を上げた。



《……なんか、今日──》



じゃあ、あのとき戸波くんが、あたしを引き留めたのって。

あたしの体調の変化に、気付いてくれてたからなの?
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