あたしのトナカイくん
「……ッ、」



くちびるが触れてしまいそうな、そんな距離で。

あたしの手の中で震えたスマホが滑り落ちて、カシャンと音をたてた。

パッと、急にふたりの距離が広がって。あたしは慌てて、スマホを拾う。



「あっ、お、お母さんが、迎えに来てくれるって!」

「……そっか。ならよかった」

「う、うん! えっとだから、戸波くんも気にしないで、休憩入ってきなよっ」

「そう、だな。そうする」



じゃあ、お大事に。

うん、ありがとう。


最後までぎこちなく言葉を交わして、戸波くんは事務室を出て行った。

ひとりきりになった室内で、あたしは熱い熱い、息を吐く。



「(心臓、破裂しそう……)」



戸波くんの、真剣な表情が、頭から離れない。

彼が触れた頬は、さっきよりもずっと、熱をもっていて。


……ほんとは、とっくに、気付いてたの。

年上とか、年下とか。

そんなの、関係なかった。


あたし、戸波くんのことが、すきなんだ──。
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