あたしのトナカイくん
「戸波くん、もうすぐ上がりの時間でしょ? もう上がる準備してていーよ」

「それは三多さんも同じでしょ。時間いっぱいまで働きますよ」

「……そう」



やっぱり、今日の戸波くん、どこかよそよそしい感じがする。

レジのあたりを整理し始めた彼を横目に、あたしはなんだか泣きそうになっていた。


と、そのとき出入口の自動ドアが開いて、若い男女のグループのお客さんが入ってきた。

いらっしゃいませ、と声を掛けると、そのグループはわいわい賑やかに話しながら、カウンターの前に来る。



「何名様ですか?」

「あ~、6人で」

「6名様ですね。では、どなたか会員カードのご提示を……」

「──あれっ、トナカイじゃん!」



聞こえた声に、え、ととっさに顔をそちらに向けた。

グループのうちのひとりが戸波くんに視線を向けていて、彼も彼で、少し驚いたような表情をしている。



「マサト。久しぶり」

「うわー久しぶり! 中学卒業以来?」

「そーだな。おまえ同窓会来てなかったじゃん」

「あんときは用事あったんだよ」

「えートナカイくん? ここでバイトしてたんだ!」

「うっわ変わってないね!」

「どーいう意味だよそれは」



どうやら、そのグループのうち数人が、戸波くんの中学の同級生だったらしい。

和気あいあいと話す彼らを、あたしは特に咎めることなく、ぼんやり眺めていた。

まあ……今は他に、お客さんも来てないしね。
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