あたしのトナカイくん
すると、その中にいた、女の子のひとりが。

あっと何か気付いたように、カバンをごそごそあさり始めた。



「そーだ今日、バレンタインでしょ? せっかくだから、カイトくんにこれあげる」

「え」

「……ッ、」



『櫂斗くん』。

それは、戸波くんの本名で。

それまで彼らが呼んでいたあだ名とはまるで違ったその響きに、あたしは思わず顔をあげた。

見ると、彼の名前を呼んだその女の子は、自分のカバンから出したかわいらしい包みを、戸波くんに向かって差し出しているところで。

ドクン、と、心臓が嫌な音をたてた。



「え、アヤミくれんの?」

「うん、今日みんなに配ろうと思って、いっぱい作ってきたの。カイトくんが、おいしいって言ったやつだよ」

「あ、そういやおまえら、あの頃付き合ってたっけ!」

「うわー、感動の再会?!」

「カラオケのどこが感動の再会だよ」



呆れたように戸波くんはそう言って、だけど彼は、“アヤミちゃん”の手から、ひょいっとその包みを受け取った。

──ズキン。

また勝手に、あたしの胸が、痛む。
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