あたしのトナカイくん
ガチャ!

あたしがとっさに何か言おうとしたのと同時に、出入口のドアが開く音がした。

あたしは光の早さで、戸波くんと壁の間から抜け出す。




「ふ~、働いた働いた……柚月ちゃんと戸波くん、どうしたの?」

「い、いえ!! なんでもないですよ、村木さん!!」



元気なオバちゃんという風貌な、半年ほど前から昼間だけ入ってくれている50代前半の村木さんに、あたしはぶんぶんと首を振ってみせる。

戸波くんの方から、あたしにだけ聞こえる大きさで「チッ……」と舌打ちが聞こえてきた。

こわい!! DKこわいよ!!



「そういえば、柚月ちゃんこないだ行ってきたんでしょ? 家族で北海道旅行。どうだった?」

「そっ、それはもう、すばらしかったですよ!! あっ、これ少しですけど、食べてくださいーっ!」



自分でも不自然なくらい明るく、テーブルの上に置いていたお土産のお菓子を差し出した。

あら悪いわねぇ、と言いながら、村木さんが箱の中からひとつ取る。



「おいしいわぁ、このお菓子」

「それはよかったです! と、戸波くんも、勝手に食べていいからね! あたしちょっと、更衣室の方行ってきますっ」

「は~い」

「………」



じっとりとした戸波くんの視線を感じながら、あたしは休憩室を出て。

ドアを背にしたまま、その場で深く、ため息を吐いた。
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