【完】恋の太陽、愛の月
俺は二人に声をかけずにその場を去った。
・・・やっぱりすぐに二人をお祝いする気分にはなれないから。
だからせめて少しだけ時間がほしかった。
まだ二人が付き合ったという事実を否定したいんだと思う。
「俺は何も見ていない」
自分にそう言い聞かせて、自分の働いている塾へと急いだ。
塾内に入ると生徒たちが俺を来るのを待ってくれていた。
仕事をしている間だけは何も考えず、生徒たちのために動けるから居心地がいい。
「先生遅いよー!!」
「おっせーぞ!」
「明日学力テストあるから先生に教えてほしいところが・・・」
「冬休みだけど先生に会いにきたぜー♪」
俺は三つのクラスを担当していて、今日は中学生のクラスを教えることになっている。
「分かった分かった。とりあえず席について」
俺の言葉に全員が返事をして席につく。
ふと見ると廊下に今日はないはずの高校生クラスの女子生徒がいた。
「染谷。今日は授業ないぞ?」
中学生たちにプリントを渡し、廊下に出る。
彼女は染谷楓-ソメヤカエデ- 18歳。
「・・・えへへ。先生に会いたくなっちゃって」
今時珍しいギャルっぽくない女の子。
髪はセミロングの黒。薄いピンク色のメガネをしている。
顔は決してかわいいというわけではないが、性格がいいと塾内では言われていてそれなりに男子からは告白されているらしい。
東京の大学を受験するために、この塾で対策をしている一人だ。
そして、どうやらその染谷は俺に恋心を抱いているらしい。
・・・分かっていても、俺は決して彼女を受け入れようとはしなかった。
ひなたがいればそれでいいと思っていたから。