Dreamer
そして達也が、咲とのことを話し始めた。

「実は最近、オーディションが近いからって言って、朝早くから遅くまで練習してるんだ。
もちろん応援はしてるけど、朝ごはん抜いたり、あまり寝てなかったりで。心配して咲に声をかけたはずだったのに、喧嘩になっちゃって..。僕は咲に嫌われちゃったのかな、なんて考えて。
僕が本当にしたいのは、咲の支えになることなのにね..。」

「..そっか。話してくれてありがとう、達也。」

「ううん。こっちこそ、聞いてもらってスッキリしたよ。」

首をふってそう言った達也の顔は、まだ少し曇っていた。

[咲と優のために、何かしたい。]

そう思ったとき、優が前に出て言った。

「んじゃ、あとは俺らの番だな!なっ?みずきっ!」

どうやら、私も優も思ってたことは同じだった。

「うん!!」

そう返事をしたあとに、私たちは仲直りをさせる作戦を考え始めたのだった。



そして私は咲のことをサポートすることになり、咲がいる体育館に足を向けた。

[きっと咲だって、喧嘩なんかしたくないはずなんだ。]

そう思いながら体育館をのぞくと、舞台の上で一人練習する咲を見つけた。

台本を片手に、声を出しながら演技する彼女はすごかった。

声をかけるのを忘れて見ていると、咲と目が合った。

「みずきっ!」

少し驚きながら、咲は台本を椅子の上に置いた。

「ごめん、邪魔しちゃったね。..今、いい?」

「あ、うん。ちょっと待って!」

咲はそう言うと、片づけをして舞台から下りてきた。


タオルで汗を拭きながら、咲は壁にもたれて座った。

私も隣に座って口を開いた。

「咲、すごかったね。いつもあんな風に練習してるの?」

「あ~うん、まあね..。」

そう言った咲の目は、いつもと違っていた。

「...達也に言われて来たの?」

「違うよ。」

私がそう答えると、咲は"そっか"と小さく呟いた。

私は、ゆっくりと話し始める。

「ねぇ、咲?」

「何..?」

「咲は、本当は分かってるんだよね?達也は、咲のことを思って言ってくれてるんだって。」

「っ...!」

咲は大きく目を開いてから、かすれた声で言った。

「そうだよ...分かってた。達也が怒るのは、私を心配してくれてるからってこと。
...だけど、もうオーディションまで時間ないのに、上手くいかなくて、焦りとか不安を、達也にぶつけた...。」

「うん。」

「私..達也と喧嘩して教室から逃げたとき、何度も戻ろうと思った..。でも、達也にどんな顔で会えばいいのか分かんなくてさ...。」

咲の声が聞こえないほど小さくなって隣を見ると、咲は顔を体にうずめて泣いていた。

私は震えている咲の手を握って、咲を呼んだ。

「咲、こっち見て..?」

「ん...?」

ゆっくりと顔を上げた咲に、私は笑って言った。

「大丈夫だよ。達也なら、きっと分かってくれる。」

そう言い終えたとき、二つの足音が聞こえた。

「え....」

咲は立ちながら声を出した。

足音の正体は、優と達也。

二人は、体育館に入ってきて、優は達也の背中を軽く叩いた。

「うわぁっ!!」

態勢を崩しそうになりながら、達也は咲の前に立った。

咲は私の方を向いて、不安そうな顔をしていた。

私は咲の背中を撫でながら言った。

「大丈夫、咲の気持ちを言えばいいんだよ。」

「でもっ..!」

「伝わるよ。だって達也は、お姉ちゃんを大切に思ってるから。」

「...!うん...。」

咲はうなづくと達也に向かい合った。

「達也、ごめん。本当は嬉しかったんだ。心配してくれて、怒ってくれて..。
でも、上手くいかなくて不安で、達也を傷つけた...本当にごめん。」

「僕こそ、ごめんね..。咲のこと、応援したいって思ってたのに、逆に苦しめちゃったね。」

首を横に振りながら言った達也は、咲の頭を優しく撫でた。

その瞬間、咲はたくさんの涙を流した。


「成功、だな?」

小さい声で言った優に私はうなづいた。

「うん!」



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[咲と達也、仲直りできてよかったなぁ。]

駅から家までの途中、私はみんなで撮ったプリクラを見ながら歩いていた。

真っ暗な道を、携帯のライトで明るくして進む。

学校の帰りに、打ち上げってことになってゲームセンターで遊んでいたから、すっかり遅くなってしまった。


「ただいま~。」

そう言ってから私は気付いた。

玄関に、いつもはない二つの靴があることに。

赤色のパンプスと黒色の革靴。

[これ..お母さんとお父さんのだ!]

久しぶりに会えることが嬉しくて、私は急いで靴を脱いだ。

「お母さんっ!お父さんっ!ただいまぁっ!!」

そう言いながらリビングのドアを開けると、二人は何も言わずに向き合って座っていた。

私に、ゆっくりと顔を向ける二人の表情には、笑顔なんてなかった。

「どうしたの...」

でも、その答えはすぐに分かった。

「どういう..こと..?」

二人の間にあったのは、二つの指輪と、難しい言葉が書いてある紙。


そして、やっと聞こえた言葉は、"おかえり"ではなく...。

"さよなら"だった。

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