ヒールの折れたシンデレラ
第一章
(1)異例の異動は突然に
そびえたつビル群の中で一際大きなビル。
始業時間前の駅からそのビルに続く人の波はその会社のエントランスにぞくぞくと飲みこまれていく。
ビジネススーツをきちんと着こなし、同僚と挨拶を交わす人。
先日のコンパの話をしながら歩くOL。
多くの人の生活の中心となるそこは、葉山ホールディングス株式会社―― 鉄道事業を主な業務とし、ホテル、旅行、レストラン、都市開発など様々な分野で業績を上げる日本屈指の会社だ。
八時四十五分――今日も日本を動かすこの会社が動き出す。
***
「もう、この年の経理課長誰っ!」
地下の資料室で瀬川千鶴(せがわちづる)は怒りを爆発させていた。
本来ならばデーター管理されているはずの過年度の資料の一部が存在せず、こうやって原本を探すはめになっている千鶴は途方もない資料の山を目の前に思わず、誰かもわからない過去の経理課長を罵らずにはいられなかった。
「あっ、見つけた!」
目当ての資料をやっとの思いで見つけて分厚いファイルに手を伸ばして取ろうとする。
しかし悲しいかな身長百五十三センチの千鶴の手にはなかなか届かない。
下の部分をひっかけて取ろうとして、ファイルの山がどさどさと頭上に落ちてくる。
「きゃーーー!」
頭をかばうだけで精いっぱいだった。
しゃがみこんだ千鶴は見るからにボロボロで、ファイルが散らばった惨状を目の当たりにして思わずため息をついた。
「今日は本当についてない」
落下してきたファイルを脚立に乗りきれいに整理する。
(はじめから脚立使っておけばよかった)
目当てのファイルを手にすると資料室を出た。
するとそこにはいつも仲良くしている清掃のおばちゃんがいて、千鶴をみつけるなり声をかけてきた。
「千鶴ちゃん、あんたなんかやったのかい?」
「え?」
「さっき経理課の前を通ったらみんながあんたを探してたからさ」
「みんなが?」
「そう、総出で」
一体なんのことだか千鶴にはさっぱりわからなかったが、おばちゃんにお礼をいって急いでデスクに戻ることにした。
始業時間前の駅からそのビルに続く人の波はその会社のエントランスにぞくぞくと飲みこまれていく。
ビジネススーツをきちんと着こなし、同僚と挨拶を交わす人。
先日のコンパの話をしながら歩くOL。
多くの人の生活の中心となるそこは、葉山ホールディングス株式会社―― 鉄道事業を主な業務とし、ホテル、旅行、レストラン、都市開発など様々な分野で業績を上げる日本屈指の会社だ。
八時四十五分――今日も日本を動かすこの会社が動き出す。
***
「もう、この年の経理課長誰っ!」
地下の資料室で瀬川千鶴(せがわちづる)は怒りを爆発させていた。
本来ならばデーター管理されているはずの過年度の資料の一部が存在せず、こうやって原本を探すはめになっている千鶴は途方もない資料の山を目の前に思わず、誰かもわからない過去の経理課長を罵らずにはいられなかった。
「あっ、見つけた!」
目当ての資料をやっとの思いで見つけて分厚いファイルに手を伸ばして取ろうとする。
しかし悲しいかな身長百五十三センチの千鶴の手にはなかなか届かない。
下の部分をひっかけて取ろうとして、ファイルの山がどさどさと頭上に落ちてくる。
「きゃーーー!」
頭をかばうだけで精いっぱいだった。
しゃがみこんだ千鶴は見るからにボロボロで、ファイルが散らばった惨状を目の当たりにして思わずため息をついた。
「今日は本当についてない」
落下してきたファイルを脚立に乗りきれいに整理する。
(はじめから脚立使っておけばよかった)
目当てのファイルを手にすると資料室を出た。
するとそこにはいつも仲良くしている清掃のおばちゃんがいて、千鶴をみつけるなり声をかけてきた。
「千鶴ちゃん、あんたなんかやったのかい?」
「え?」
「さっき経理課の前を通ったらみんながあんたを探してたからさ」
「みんなが?」
「そう、総出で」
一体なんのことだか千鶴にはさっぱりわからなかったが、おばちゃんにお礼をいって急いでデスクに戻ることにした。
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