ヒールの折れたシンデレラ
秘書課の隣はすぐに専務室だ。秘書課の課長と常務の秘書を勇矢が兼ねていることからこういうつくりになっている。

勇矢に続いて千鶴も部屋に入った。

「失礼します」

「失礼します。瀬川さんをお連れしました」

紹介されて、会釈をする。

「瀬川千鶴です。本日よりよろしくお願いします」

そう言うと、「こちらにかけて」とソファに座るようこの部屋の主に促される。

「秘書課はどうかな?」

ふんわりとした笑顔で問いかけられる。思わずみとれてしまう。

「あの、まだ自己紹介しかしてませんので……」

「あぁ、そうだね、それじゃ何とも言えないか」

ソファと机の間で窮屈そうにしていた足を組み変えた。

「君には俺の第二秘書をしてもらうことにした」

「はい、先ほど課長から聞きました」

そう答えると「じゃあ聞くけど」と質問が返ってきた。

「どうして君が俺の秘書になったんだと思う?」

秘書課に配属になった理由さえも分からないのに、常務付きになった理由なんてもっとわからない。

「いえ、どうしてでしょうか?」

「君が普通の子だからだよ」

“なぞかけ”みたいな答えを超絶スマイルでくれた相手こそがこの葉山ホールディングスの次期後継者の葉山宗治。現在は常務取締役だ。


少し猫っ毛の黒い髪は無造作にみえて清潔感も合わせ持つ。

きれいに孤を書く眉に少したれ目がちの瞳には十分な甘さが含まれていて、左目の下には小さなしかし印象的なほくろが鎮座していて彼の魅力を一層引き立てていた。

よく通った鼻筋にきゅっと口角の上がった口。十人いれば十人が“かっこいい”ともらすような人だ。
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