ヒールの折れたシンデレラ
頭からシャワーを浴びている広いバスルームは、千鶴のマンションの倍ぐらいはあるだろうか。

そんなことに感心しながらシャワーを浴びる。

(べつに初めてなわけじゃないんだし)

自分に平気だと言い聞かせているが、正直宗治への気持ちを自分で認めたのが昨日。

そしてあれよあれよという間にこんなことになるとは、一週間前の千鶴が想像できていただろうか……。

シャワーを止めて覚悟を決める。

脱衣所に準備してあったバスローブを身につけて、一歩外にでると背後からぎゅっと抱きしめられた。

自分の腰に回された腕に胸がドキリと高鳴る。

「い、いきなり反則です」

「こういうことにルールなんてないの」

腕の中の千鶴の向きを自分のほうにむける。

「あの、水、水が飲みたいです」

こんなに早く捕まってしまうと思ってもみなかった千鶴は、少しの時間を稼ごうと水を要求した。

宗治の手にはミネラルウォーターのペットボトルがある。

それを渡されるものだと思っていたら、煽るように自分が飲み始めた。
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