ヒールの折れたシンデレラ
手にもった小さな靴に視線を移して宗治に感想を求める。

「ん~よくわからないけどいいんじゃない」

「もう、もっと真剣に考えてください」

ふてくされる千鶴をよそに宗治は店員を呼んでくれていた。

「歩き始めるころには、何センチぐらいがいいの?」

的確にいろいろ質問する姿を横で見ながらほかのものを物色する。

「ねぇ、これはどうですか?」

「いいんじゃないか」

差し出した小さな帽子を見て宗治は「しかしちっせーな」と感心した様子で手に取る。

そんな二人のやり取りを見ていた店員がにこやかな笑顔でいう。

「お生まれになるの楽しみですね。性別は女の子とおわかりなのですか?」

その質問の意味を千鶴はしばらく理解することができずにいたが、普段冷静な宗治が「いや、あの、ちがっ」と慌てている様子を見てやっと千鶴も理解できた。

そしてそれと同時に顔に熱を帯びる。

二人はなぜだか店員に『出産を控えた夫婦』に見られたまま買い物を終えた。

「プレゼント包装してください」

千鶴がそう伝えても店員はニコニコと「パパとママからのはじめてのプレゼントですね」と返されて二人とも苦笑いを浮かべ気まずい思いをした。

車に乗りこみ高浜家へと向かう。

子供が生まれる前に購入した少し郊外の一軒家に向かって宗治の運転する車が走り出す。

「最後まで誤解してましたね。あの店員さん」

「そうだな。俺たちもそんな風に見えるんだな」

「私妊婦さんに見えるってこと?」

千鶴は気にしているおなか回りを手で撫でる。

「ぷっ。気にしすぎだろ。子供作る作業は大好きだけど」

ニヤニヤといじわる気に言う宗治に千鶴は「変態」と小さな声で毒づいた。
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