ヒールの折れたシンデレラ

(3)灰かぶり姫

自分のデスクに戻り、勇矢から受け取った宗治の名刺の整理をしながらそれに伴う個人の趣味思考の情報をデータベース化したもので確認する。

名前と顔を覚えるのは特技とも言える千鶴だったが、内容がなかなか頭に入ってこない。

朝から、いや辞令がでたときから続いていた緊張が原因だろう。

ちょうど時計を見ると十二時を五分ほど過ぎたところだった。

(お昼食べて一度リフレッシュしよう)

そう思いいつものように社員食堂へと向かう。

エレベーターを降りると、何人かの社員がこちらを見て、目が合いそうになるとさっと顔をそらした。

不思議に思いながらも、本日の日替わり定食の食券を買ってトレイを持ち、食堂のおばちゃんに「よろしくお願いします」と声をかけて食券を渡した。

その間も後ろに目が付いているわけじゃないが、ひしひしと視線を感じていた。

トレイにランチが全部そろって、不意に後ろを振り向くとひそひそ話をしていた声も一斉にやむ。

(なんだかとっても感じ悪い。私間違いなく注目されてる)

どうして自分にそんな視線が送られるのか不思議に思いながら窓際の席に座ろうとした。

すると背後から自分を呼ぶ声がして振り向く。

そこには血相をかかえた理乃が早足でこちらに向かってきていた。

「そんなに急いでどうしたの?」

経理課での千鶴の仕事に何かミスがあったのだろうか?心配になって理乃に確認する。
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