ヒールの折れたシンデレラ
財布とスマホだけを持って、廊下へ出ると急いでエレベーターホールへと向かう。

するとバタバタという足音がして振り返るとそこには宗治が早足で近づいてきていた。

「やばいっ!こっち」

「えっ!?」

すると宗治は空いている会議室に千鶴を連れ込んだ。

「何なん……」

「シッ!」

指を唇にあてて静かにするように言われる。

廊下からは勇矢の「常務――!常務!くっそ宗治のやつ逃げやがった」と聞こえてくる。

しばらくすると足音も声も聞こえなくなる。

「行ったか?」

「たぶん。っていうかどうして私まで隠れないといけないんですかっ!?」

軽く睨む千鶴に宗治は笑顔で返す。

「だってこういうことするから」

いきなり顔を近づけてきてオフィスでするには濃厚すぎるキスをしてくる。

「……んっ。ううーーん、もう!」

必死で宗治の胸を押しのけて抗議する。

それでも宗治は顔を近づけてくるので千鶴はすばやく身をかわした。

「逃げるのうますぎない?」

「運動神経はいいんです」

そんな会話をしながらお互い噴出した。

「でも本当に早く戻らないと課長にコテンパンに怒られますよ」

「それは怖いな。でもその前に千鶴に確認しなくちゃならないことがある」

「――?」

先ほどの打合せでは、特に問題などなかったはずだ。
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