ヒールの折れたシンデレラ
「そしたらなんて言ったと思う?次そういうことしたら会社クビにして、父親の会社との取引もやめるって。それはそれは冷たい目で言うの。おかしいでしょ。プレイボーイがキス一回で」

艶香はクスクスと笑う。千鶴はただそれを静かに聞いていた。

「なんかそれで吹っ切れたというか馬鹿らしくなったというか……私あきらめ早いのよ」

おどけた表情を見せる。

「私は“いちぬけた”わ。さっさとお見合いして別の人を見つけるつもり。そこまで常務自身にこだわりがあったわけじゃないから」

「そうなんですか」

「そうなんです。しかし遠山さんもかわいい顔してやるときはやるわね~焦ったのかしら?窮鼠猫を噛む??まぁああいうなににも知りませ~んって子が案外ダークホースだったりするから、せいぜい気をつけなさい」

「ダークホースって」

あまりの言い方だ。

艶香がそういうのも無理はない。

最近の園美は宗治に対して驚くほど積極的だ。

お茶を運ぶなど千鶴でなくてもいい宗治の身の回りのことは率先してやっていたし、父親の名前を出して食事に誘ったりもしている。あきらかに今までの園美とは違っていた。

それはもしかすると、園美が千鶴の代わりに宗治と食事をしたいと言い出したあの日が原因なのかもしれない。

食事の席で宗治においていかれた園美の気持ちを思うと、申し訳なくなる。

彼女の気持ちを知っていながらも、宗治への思いを止められなかった。

罪悪感がないわけじゃない。でも今更宗治の傍を離れることなんて考えられなかった。

(自分勝手で最低……)
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