ヒールの折れたシンデレラ
(さっそく……。神様は少しの猶予もくれないのね)
そう思いながらも不備の決済資料があったことを思い出し、指示を仰ごうと駆け寄り話しかける。
「常務あの……」
千鶴が話かけた途端エレベーターが到着して扉が開く。
「ちょっと乗って」
そう言われてなぜだか一緒にエレベーターへと乗り一階へと行く羽目になった。
「急に外出することになってね。その資料帰って一番に処理するからデスクに置いておいて」
なにごともなかったかのように話す宗治。
先ほどのことを聞きたいがさっき話してくれるまで待つと決めた。
「ここまで来たついでにお見送りしてくれると、仕事がうまくいきそうなんだけど」
エレベーターの階数表示が二階から一階にきりかわっているときに、宗治はかがんで千鶴の左頬に“ちゅ”っと小さなキスをした。
「!!もう、誰かに見られたらどうするんですか?」
一気に顔を赤らめて抗議する千鶴を面白そうに見ながら宗治が答える。
「べつに玄関ホールでしてもいいけど」
「もう!いい加減にして!」
頬を膨らませた瞬間エレベーターの扉が開いた。