ヒールの折れたシンデレラ
恥ずかしさから、怒っている態度しか取れない。

だけど日常のこういうことが千鶴を幸せにする。

宗治に続いてエレベーターを降りて秘書の定位置の右後ろに立ち玄関ホールを横切る。

勇矢の運転する車に乗りこんだ宗治はパワーウィンドウをさげて「いってくる」と千鶴に手を振った。

千鶴もあまり目立たないように、小さく手を振り返した。


宗治は十五階から一階までエレベーターでのわずかな移動時間に先ほどまで不安が渦巻いていた千鶴の心を幸せでいっぱいにした。

(我ながら単純!)

そうは思いながらも、顔がほころぶのを止めることはできなかった。
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