ヒールの折れたシンデレラ
バタバタといろんなことがあった一週間。週末の金曜を迎えて千鶴はほっと一息ついていた。

宗治の傍で仕事ができるのはとてもうれしいが、それに伴い周囲の視線や噂にもさらされている。

仕事も慣れてきたとはいえ、臨機応変にこなさなければならないことも多い。

常に神経を張り巡らせて仕事をしている千鶴にしてみれば週末は貴重な安息日だった。

それに――

【明日、夕方には仕事が終わるから飯にいこう 宗治】

千鶴の手元にあるスマホには宗治からのメールが表示されていた。

(これだけで元気になるんだから、私もゲンキンだな)

嬉しくてニヤつきながら正面玄関をでるとどこからか自分を呼ぶ声が聞こえてくる。

「瀬川――瀬川千鶴さん」

呼ばれた方向を振り向くとそこにはやわらかい雰囲気のただよう女性が立っていた。

千鶴の記憶に痛烈に残っているその女性はにっこりと笑顔を向けて近づいてくる。

「瀬川千鶴さんですね?」

再度尋ねられて「はい」と答えた。

「私、葉山宗治のお兄さんの妻――宗ちゃんの義理の姉の葉山妃奈子(はやまひなこ)です」

「先日はお時間がなくご挨拶できずにすみませんでした」

彼のことを「宗ちゃん」と呼ぶ、宗治の義姉が千鶴にいったいどんな用事があるのだろうか。

そして千鶴の体内のエマージェンシーコールが鳴り響く。

――嫌な予感がする。そして千鶴はその予感が当たっていることを数十分後には思い知ることになる。
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