ヒールの折れたシンデレラ
「千鶴さん……千鶴さん」

「あ、はい。でも私、宗治さんからは何も聞いていないんです」

思考がまとまらず思いついたことがそのまま口にでた。

「二人が話をできる場を設けてくれるだけでいいの、ぜひ考えてみて」

そう言い残して千円札をテーブルに置いて喫茶店から出ていった。

場を設けるだけでいい……なんて簡単にいっているがそもそも千鶴にそんなことができるなんて思わない。

第一、千鶴は宗治の口から五年前にあった妃奈子と兄との話を聞いてはいないのだ。

それほど彼の中にどんな形にせよ彼女が残っているのだとしたら、千鶴としては手の出しようがない。


千鶴は宗治の過去について知る立場にはないということなのだから。

今まで宗治の隣に立っていたその場所がぐらぐらと崩れていくような気がして目の前にあるコーヒーカップをただ見つめることしかできなかった。
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