ヒールの折れたシンデレラ
まだ息が上がったままの二人は千鶴の狭いベッドのなかでお互いを抱きしめあっていた。

「来てそうそう、がっついてごめん」

宗治は千鶴の髪にキスを落とした。

千鶴は首を左右に振って返事をする。そしてそっと宗治の心臓のある左胸に指を這わせた。

五年前におった宗治の傷はどこまで治っているのか?まだ血がながれているのか、すでにかさぶたになってそれがはがれるのを待っているのか……

それを千鶴が癒すことができるのか……。

悩みながらも千鶴は宗治に尋ねてみる。

「お兄さんのことなんだけど」

「兄貴?」

今までやわらかい表情だった宗治の顔が一瞬にして曇る。

それを自ら気が付いたのかすぐに表情をもとにもどした。

「兄貴がどうかした?」

優しく問われても先ほどの表情から、話をしたくない内容だと言うことが伺い知れる。

「……なんでもない。どんな人かなって思っただけ」

「機会があれば会わせるよ」

宗治は手のひらで千鶴の瞼を閉じるように上から下へゆっくりとスライドさせた。

これでこの話は終わりとでもいうように、千鶴を眠りの中へいざなった。

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