ヒールの折れたシンデレラ
***

ギシギシときしむ狭いベッドの上で柔らかい体を抱きしめた。

まだ眠っている千鶴を見つめる。普段くるくるよく動く瞳が閉じられていて長い睫がいつもよりも際立つ。

赤いさくらんぼ色した唇を見ていると思わず指を伸ばしてしまいそうになり、起こしてはいけないと思い直し指を引っ込めた。

いつもと変わらない様子でふるまっていたが、時折ぼーっとして考え込んでいる様子がうかがえた。

いつも一緒にいてそれに気が付かないわけがないのに何があったのか話をしてくれない。

彼女の芯の強さは好ましいが自分にまでその強さを発揮してくれなくてもいいものを……。

頬にかかる短い髪を耳にかけてやると、長い睫が小刻みに震えた。

(起こしてしまったか……)

ゆっくりと瞼が開く、まだ覚醒していないトロンとした目が宗治の欲に火をつけた。

目の前にいる宗治を認識して千鶴は驚き目をみはる。

目を見開いたままの千鶴に宗治はそのまま朝にふさわしくない口づけをする。

仰向けにさせてまるで咀嚼するかのように繰り返す口づけに千鶴の息が上がる。

二人の間に手を入れて胸をぐっと押された。

小さい抵抗だがそれを受け入れて、宗治は二人の間に距離をとった。
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