ヒールの折れたシンデレラ
就業開始時間が過ぎても千鶴の心は落ち着かないままだった。

(仕事で行ってるんだからこういうこともある)

千鶴は自分を励ましながら、宗治に電話して声が聴きたいと思う気持ちを抑え込んで、意識を仕事へ集中させた。
そして今日は仕事よりも大事なことがある。

時計をみて千鶴は会長室へと向かった。

「失礼します」

部屋に入ると和子は書類を読んでいた眼鏡を外して、ソファへと歩いてきた。

そしてそこにゆっくり腰掛けると千鶴にも座るようにと手をソファへと差し出した。

「で、あなたから話したいことがあるなんてはじめてね」

優しい声で言われると今から話すことで、和子をがっかりさせるのがわかっている千鶴はうつむく。

「あの、私あの絵いりません」

「は?だってあれあなたの大事な絵でしょ?何年も探していたって言っていたじゃない」

驚いて目を見開く和子に申し訳ないという思いが湧き出る。

「思い出よりも大切にしたいものができました」

そして一呼吸おいてから話を続ける。

「私に常務と誰かを結婚させることはできません。すみません」

一気に言って和子の顔を見ると先ほどよりも驚いた顔を見せる。
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