ヒールの折れたシンデレラ
今回の出張は先日契約をしたドバイのムバラックの会社へと出向くのが目的だ。

ドバイとの時差は五時間。深夜に電話をかければ宗治もホテルでリラックスしている時間だろう。

集中力を欠いた千鶴は案の定仕事が思うように進まずに残業をこなしていた。

宗治も勇矢もいないので、本来ならば仕事が少なく早く帰れるはずなのに。

千鶴はため息をつき残りの仕事を仕上げていった。



電車に揺られて自宅にたどり着いたころには、時計の針は間もなく十一時を指そうとしているところだった。

荷物を置きはやる気持ちを抑えて宗治のスマホへと連絡するが電源が切れているようで留守電につながった。

一度シャワーを浴びてから再度呼び出してみるが同じように留守電へとつながる。

普段ならばメッセージを残して折り返しを待つようにするのだが、妙に気持ちが焦り思い切って滞在しているホテルに連絡を入れて部屋へと回してもらうことにした。

呼び出し音が耳に響く。

―――ガチャ

受話機をあげる音がする。

「もしも―――」

「はい」

そこから聞こえてくるはずのない女性の声が千鶴の鼓膜に響く。続く言葉が出てこない。
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