ヒールの折れたシンデレラ
「もしもし、Hello？」

「あの、園美ちゃん？」

やっとのことで声を絞り出す。

「はい。もしかして瀬川さんですか？すみません。いま常務バスルームで……」

バスルームと聞いて息をのむ。それに園美が気づいたのか慌てて訂正する。

「バスルームって言っても、私がさっき常務のズボンにお水をこぼしてしまってそれでお着替えをなさってるんです」

それを聞いて千鶴はそっと胸をなでおろす。

「あの、お急ぎの用事でしたら私が言付けますよ」

嫌な予感がしたから電話をしたなんて園美のまえでは口が裂けても言えない。

その予感が半分ぐらい的中しているのだから。

「急ぎではないの。明日連絡をいれるようにします」

そういって通話を終えた。

こちらが十一時前ということはおそらく夕方の六時ごろだ。まだそんなに遅い時間ではないし何か理由があって宗治の部屋に園美がいるのだろう。

悪い方向へ考えればきりがない。

それでも今の千鶴は物事を楽観的に考えられなくなっていた。
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