ヒールの折れたシンデレラ
「はははは……あの若造もここまでよく手なづけたもんだ」

ソファにもたれ天井を仰ぐほど上をみて馬鹿笑いをする日下に千鶴は再度確認する。

「これで常務には何もしないって約束してください」

拳を握りしめて訴える千鶴を馬鹿にしたような目で日下がみる。

「はぁ?何を言ってるんだ。これでアイツの罪が明確になった。自分の女に金を横領させたってな!これであの男もおしまいだ」

さっきよりもより大きな笑い声で笑う日下のセリフに千鶴が青ざめた。

「だって……さっき、これにサインしたらって……」

「さて、そんなこと約束したかな?」

宗治を助けることに必死で冷静な判断を欠いた。

あのデータもわざと千鶴に見つけさせたのであろう。

これでは助けるどころか足枷になるだけだ。

見下すような日下の態度。

千鶴は書類を取り返そうと手を伸ばしたが、それをはねつけられる。

激しくテーブルにぶつかりガラスの灰皿が大きな音を立てた。

それでも千鶴は立ち上がり取り返そうとする。

(ここで足でまといになりたくない。もしもう嫌われていたとしても、それでも私は私のやり方で彼を守らないと)

もう一度立ち向かってきた千鶴を日下は押し倒し、馬乗りになり手を上げる。

「おとなしく俺の言うことを聞いていればよかったのに、馬鹿め」

下から見上げる男の顔は醜く歪み、口元には笑みさえもみられる。
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