ヒールの折れたシンデレラ

内装などは父が自らコツコツと仕上げたここは数少ない千鶴が父親から譲り受けたものだ。

ここも、叔父によって売りに出された経緯があったが買い手がつかず幸い売られることはなかった。

千鶴の給与から固定資産税だけは何とか支払っていた。ここも千鶴にとっては家族の思い出の残る大切な場所だった。

鍵をあけて中に入る。ずっと使っていなくて埃っぽいが窓をあけて換気をすれば十分すごすことができる。

二階の寝室に入り、引き出しからシーツをとりだしてベッドメイクをする。

鞄からミネラルウォーターを取り出し一口飲み、すぐにベッドに横になると同時にスマホが着信を知らせる。

画面には宗治の名前が。

何度かコールが続き千鶴が通話をタッチできずにいると切れて再度鳴り始めた。

意を決して応答する。

「もしも……」

『今どこにいる?』

「……少し一人になれるところです」

『電話にも出ないし、マンションに行ってもいないし一体どこだ?すぐに迎えに……』

「来ないでください」

きっぱりと言い切った千鶴に宗治は一瞬言葉をなくす。
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