ヒールの折れたシンデレラ
この一ヶ月で宗治と千鶴の関係も微妙に変化してきている。

話し方もその一つだ。

千鶴も社会人。上司に対しての言葉遣いは心得ている。

だが宗治に対しては“物申したい”ことが多すぎていつの間にか、ストレートなもの言いをするようになっていた。

初めて千鶴が口を滑らせたときに、宗治が「そのままでいい。これから長い時間一緒にいるんだから」と不問に付した?ので飾らない言葉で話すようになった。

それに遊んでばかりだと思っていた宗治の仕事ぶりには正直驚いた。

会議や打ち合わせ接待。それらを精力的に行って部下ともまた経営陣ともうまくやっている。

千鶴には難しい話でも噛み砕いて同じ目線に立って説明してくれるので、仕事の面では宗治の下について正解だったと思う。

でも変わらないものもあった。それはプレイボーイという肩書だ。

秘書課になって初めて知ったのだが、勇矢はすでに結婚をしていてもうすぐ奥さんが出産予定だということだ。

今まで宗治の仕事の内容をひとりで把握し処理してきた勇矢も家庭に時間を割きたいと宗治に申し出ていたようだ。

そしてその秘書の仕事のもっとも面倒なことが、プレイボーイ葉山宗治のお世話だった。

接待でも使うクラブのお姉さんへの誕生日のプレゼントやお花の手配。

デートで行くであろう、レストランやホテルの予約。

初日に経験した仕事中もおかまいなしに電話をかけてくる女性への対応。

正直自分でやってよ。と声を大にして言いたいのを我慢して仕事だと思い取り組む。

(それがなければ完璧なのに)

横柄だなと思うこともあるが、しかしそれは許容範囲。


宗治は最初に想像していたよりも、ずっとずっとまともな人間だ。“プレイボーイ”というのはいただけないが。

車が動き出して窓の外を眺めながら千鶴がもの思いにふけっていると、隣から声をかけられた。
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