ヒールの折れたシンデレラ

「一応聞いてあげる。ランチは何が食べたい?」

「――オムライス」

「却下。勇矢、いつものところな」

そう言われて、運転中の勇矢は声を出さずに頷いて返事をした。

(聞かれたから答えたのにな……。明日は絶対煉瓦亭のオムライス食べよう)

口をきゅっと結んで窓の外の流れる景色を見ながら千鶴は明日のランチに思いをはせていた。

しばらくして車が緩やかに停車して宗治がいつも通っているイタリアンの店に到着した。
ふたりが連れだって入口に向かっていると、中年の人の良さそうな女性が木製の扉を開いて出迎えてくれた。

看板も何もないこの店は宗治の肩書からするととてもこぢんまりとした店だ。
初めて連れてこられた千鶴はキョロキョロと周りを見ながら宗治のあとに続いた。

奥まった席に案内されて、ミネラルウォーターがサーブされる。
ランチのコースは一種類らしく何もいわずに案内してくれた女性は戻って行った。

手持ちぶさただった千鶴はミネラルウォーターを一口飲み静かにグラスを置いた。

「こんなこといつまで続けるつもりなんですか?秘書課だけでなくほかの社員にも私が常務と仲良しだと思われています」

「仲良しでいいじゃないか。どうせ彼氏もいないんだろう」

図星をつかれてそこで会話が終了した。

前菜が運ばれてくる。大きなプレートに、サーモンカルパッチョサラダ仕立て、彩が綺麗なキッシュ、小さなライスコロッケ、ローストされた鴨が並んでいる。

気分はオムライスだったが、目の前にごちそうを並べられると、性格と同じく素直な千鶴のお腹は急激に空腹を知らせて来た。
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