ヒールの折れたシンデレラ
「いただきます」

思わずにやけてしまうが、こういうときの我慢はしないと決めている。

嬉しいときは素直に。悲しいときも笑顔で。これは千鶴が心に決めていることだ。

次々と口に運んではニコニコとほほ笑む千鶴を、宗治が優しい目で見ていたことなど本人は全く知るよしもなかった。

メインのお肉の後に、宗治にはパスタがふるまわれたが、千鶴の前には何も置かれていない。

普通ならば同時にサーブされるはず。そんな風に千鶴が考えていると、シェフが皿にのったオムライスをもって登場した。

「これ！」

驚いて宗治のほうを見ると黙々とパスタを食べている。

「オムライス喰いたかったんだろう？」

そう言って顎をクイッとあげて食べるように促してくる。

一口食べると、口の中にバターの香りとトマトソースの味が広がった。

「うれしくて、おいしいです」

そう言う千鶴に「おいしくて、うれしいの間違いだろ」と宗治が返す。

「いいえ、常務の気遣いがうれしくて、おいしいんです」

ニコニコとほほ笑みながら、次々オムライスを口に運ぶ。

そんな様子をみて宗治の口元がうれしそうに緩んだ。

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