ヒールの折れたシンデレラ
その日の午後からは華子の機嫌が今までにないほど悪く、千鶴はそれを一人で受け止めて心身共に疲れた。
第一、第二企画室の合同会議が役員フロアにある会議室でおこなわれ、女子社員達が会議室の片付けをしていた。三十名近くの机や椅子、プロジェクターなどを合わせると結構な重労働である。
千鶴も手伝おうとその場で椅子を動かしていた。
すると背後からカナリアのような美しい声が響く。
「みなさん、ここはこちらで片付けますので、お仕事におもどりください」
華子がさっそうと現れて、宣言する。
(でもここ秘書課の四人で片付けるのって大変だけど……)
華子の威圧感は初対面の相手にでも伝わるらしく、恐れをなした女子社員達は「お願いします」とだけ言葉を残し
て去ってく。
仕方がない、四人でもなんとかなるだろう。そう思って引き続き片付けをしようとした千鶴に華子が腕を組んだまま話かける。
「わたくし、別件でいそがしいんですの。遠野さんは本日早退されたみたいですし、後藤さんは爪が割れるのでこういう仕事はなさいませんのよ。だから、あなたひとりでここの片付けお願いしますね。おいしいランチを召しあがったようですし、このぐらい大丈夫ですわね」
吐き捨てるように言ってすぐに会議室から出て行く。
持っていた資料が足元に散らばった。
(うそでしょ……!)
体中が悲鳴をあげるとはこのことだ。
結局十五時から十八時までたっぷり三時間もかかって会議室の片付けをした。
自分のデスクに戻ったときに、室内はもぬけの殻でそれでも今日中にしなければいけない仕事を急ピッチで仕上げていた。
そこへやってきた勇矢に「今日はもう帰りなさい」と言われて、すでに時計は二十時半を指していることに気がつく。
明日早く来てやるしかない。そう思ってデスクの片付けをして勇矢に挨拶をしてから会社を後にしたのだ。