ヒールの折れたシンデレラ
会議終了後会議室前で宗治が出てくるのを待っていると、肩に手をおかれて振り返る。

そこには先ほど宗治と激しく議論した日下が立っていた。

「君があの噂の秘書課のシンデレラか。どんな手をつかってあの肩書だけのプレイボーイに近づいたんだ」

「……あの?」

「ただ葉山の一族っていうだけでちやほやされてるボンボンに嫌気がさしたら、私のところにいらっしゃい」

そう言われて背中をそろりとなでられた。

一気に全身に悪寒が走る。千鶴は一歩さがり、日下と距離をおいた。

「確かにプレイボーイです。そこは否定しません。でも仕事に関してはボンボンだなんて感じたことは一度もありません。常務はそれぐらい真摯に仕事に取り組んでおられます」

この一ヶ月傍で仕事を見てきた。それは千鶴が想像していたよりもハードで生半可な気持ちで務まるものではなかった。

その努力をそんなふうに言ってほしくない。

相手が取締役だということは十分理解している。だけどこれだけは譲れない。

まっすぐ見つめて言い返す。

「なっ!なんだその態度はっ」

声をあらげた日下に叱責されると千鶴が思った瞬間頭上から別の声が響いた。


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