ヒールの折れたシンデレラ
「おかえりなさいませご主人様!きゃは」

「タダイマでーす。メイドさん」

ムバラックはニコニコしながら“メイドさん”から紅茶にラブモエビームをしてもらっている。

(これで二千円か……)

始めてみる光景に千鶴は釘付けだ。

食事が終わった後に、千鶴たちが訪れたのはムバラックたっての希望で先日みつけた『メイド喫茶』に来ていた。

「そちらのお兄さんも、ラブモエビームいかがですか?」

宗治に向かって、眼鏡で三つ編みのメイドが声をかける。

「いや、俺は遠慮しておくよ」

苦笑いの宗治に千鶴か耳元で話しかける。

「だから、わざわざ来ないでいいって言ったのに。せっかくだからラブモエビームお願いしたらどうですか?」

「はぁ?あれで二千円だぞ!」

それを聞いて千鶴はクスクスと笑いだす。

「私もさっき同じこと考えてました」

「こんなことで、会社の経費は無駄にできない」

そういう宗治がおかしくて千鶴は笑いが止まらなくなった。

「笑いすぎだ」

そう言われて、肘でつつかれた千鶴はなんとか笑いをこらえようと必死になった。

その間ムバラックは嬉しそうにメイドさんと写真を撮ったり、ラブモエじゃんけんをしていたり、思い切り満喫していたようだ。

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