ヒールの折れたシンデレラ

(2)はじめての夜とふたりの朝

「いらっしゃーい」

暖簾をくぐると、昔ながらのお好み焼屋の店内に女将さんの声が響く。

「ふたりなんですけど、座敷いいですか？」

そう尋ねると「どうぞ～」と言う声が返ってきた。

正直宗治をここに連れてきていいものか迷った。
だが会社から千鶴のマンションの反対方向にあるこの店にはなかなか足を向ける機会がなく、近くにくれば必ず寄る千鶴お気に入りの店だった。

座敷の壁にはグラビアアイドルが砂浜で黄色い水着をきてビールを持っているポスターと、手書きのメニューが貼ってある。

「常務苦手な食べ物ありますか？」

「特にないから、まかせるけど豚はやめておこうかな」

冗談めかしていう宗治を軽く睨み女将さんに注文する。

「ミックスと、ネギ焼きとやきそば。あと生中二つ」

あえて豚肉が入っているメニューを頼んだ千鶴を宗治はまた笑った。

注文を聞いた女将はすぐにジョッキを二つテーブルまで持ってきてくれた。

「お疲れ様」

宗治に促されてジョッキを“カチン”と合わせた。

ごくごくと喉にビールを流し込んで、ジョッキをテーブルに置き唇についた泡を手でぬぐった。

「いい飲みっぷりだな」

肘をついた宗治が千鶴を見ながら言う。

「すみません。喉が渇いてて。ずっと緊張してたから」

「別に謝ることじゃないだろう。上品にちまちまやられるよりそうやってるほうが、見てるこっちも気持ちいい」

「では、お言葉に甘えて」

そう言うと、残りのビールに口をつけた。

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