ヒールの折れたシンデレラ
店を出てふたりでゆっくりと歩く。

昔ながらの店が立ち並ぶ通りは夜になってもどこか温かい雰囲気だ。

いつもの上司と部下とは少し違う距離感が心地よい。

初夏の夜のやさしい風をふたり一緒に感じながらタクシー乗り場まで歩く。

途中でバスケットコートをみつけた宗治が走り出しあわてて千鶴も追いかけた。

「常務急に走り出さないでください」

追いついた千鶴にバスケットボールを投げて「どう?」っと首でバスケットゴールを指す。

「私結構上手ですよ。中学まではバスケ部でしたから」

そういいながら、バッグをその場に置きドリブルをしてゴールに進んだ。

ゴール下で軽やかにレイアップシュートをすると「ひゅー」という口笛が聞こえてきた。

千鶴は胸からバスケットボールを宗治に渡すと次は宗治がゴールをめざす。

それを千鶴がディフェンスする。

「瀬川さん、経験者なんでしょ、ちょっとは手加減してよ」

「なに言ってるんですか三十センチ近く身長差があるのにハンデなんて必要ないです」

今も千鶴は宗治がもつボールに一度も触れていない。

「だって女の子に負けちゃうなんて格好悪いじゃないか」

「じゃあ負けないように頑張ればいいんです」

千鶴の手がボールに触れそうになった瞬間、宗治が抜け出てシュートを決める。

ボールを手に会社ではみたことのない笑顔を見せられて、千鶴の心拍数が急に上がる。

(お酒飲んだ後に動いたからかな?)

そんな風考えながらドリブルをしているとあっさりと宗治にボールを奪われた。

振り返り宗治をみると、華麗にジャンプシュートを決めたところだった。

久しぶりに体をうごかした千鶴は肩で息をしていた。

すると宗治は持っていたボールを千鶴にパスすると「待っていて」と言って走って行ってしまった。
< 41 / 217 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop