ヒールの折れたシンデレラ
「あーはは……ひー」

おなかを抱えて笑う宗治にますます千鶴の怒りはヒートアップする。

「だいたいですね、立派な大人がタクシーで眠り込むなんて……」

仁王立ちで説教している千鶴の後ろに壁掛けの時計が確認できた。

「やっべ!」

そういって指さす方向を千鶴も見て一瞬にして青ざめる。

時計をみると、ムバラックを空港で見送る時間が差し迫っていた。

「このままいくぞ」

そういって千鶴の手を引き部屋を出ようとする。

「あの、でも私メイクも服も昨日のまま……」

「俺だって服は昨日のままだし、化粧はタクシーの中で直せばいい」

千鶴が、鍵を閉めている間に、エレベーターのボタンを押して待つ。

千鶴が来たと同時にエレベーターのドアが開き二人で乗り込んだ。

運のいいことにマンションを出るとすぐにタクシーを捕まえることができた。

二人乗り込み行先と急いでほしいことを伝えると、二人して座席のシートに体を沈めた。

「間に合いますかね?」

「間に合わないと困る」

「もとはといえば常務がですね……」

落ち着いたところで再度説教が始まりそうだったので、宗治はあわてて人差し指を千鶴の唇に当てた。

「シッ。大丈夫きっと間に合うから」

「そういう問題じゃないのに」

まだ不服そうに唇をとがらせている千鶴を横目でみて思わず笑みがこぼれる。

感情を隠すことなく露わにする千鶴は見ていて気持ちがいい。

宗治は窓の外の流れていく景色を見ながら今この時間に一緒にいるのが千鶴であることが心地よかった。
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