ヒールの折れたシンデレラ
空港に着くと、ムバラックがゲート付近で立っていた。おそらく間もなくゲートをくぐり機上の人となる間際だ。

「遅くなってすみません」

宗治と千鶴が息を切らせて駆け寄るとムバラックが笑顔になる。

「ハヤマさーん。チヅルさーん。わざわざありがとございマース」

二人と交互に握手を交わす。

「しかし二人一緒に遅れて、今まで何してマシタか？」

ニヤニヤと笑うムバラックに千鶴の顔は一瞬にして真っ赤になる。

「いえ、あの……」

あたふたと身振り手振りで説明しようとしている千鶴がおかしくてまた笑いそうになる。

「ご想像におまかせしますよ」

そう宗治が答えると、千鶴は大きな丸い目を思い切り開いた。

驚いて声も出ない千鶴を放っておいて宗治とムバラックは話を続ける。

「二人とも昨日と同じ服ですねー。やはりジョームはチヅルさんにゾッコンなんデスね」

なんとも言えない表現に宗治は笑顔だけで返した。

「ジョームは人を見る目がありますね、今まで日本の色々な企業とお付き合いしてきましたが、チヅルさんのしてくれた接待が一番たのしかったデース。

彼女は私をよく見て喜ばそうといろいろ考えてくれました。その気持ちワタシは一生わすれまセーン」

ムバラックの言葉に千鶴は満面の笑みを浮かべる。

「ありがとうございます。次来たときは別のメイド喫茶にいきましょうね」

そう笑顔で返す千鶴は宗治よりもよりムバラックの心をつかんだようだ。

「チヅルさんがハヤマのお嫁さんになるなら安泰ですね。末永くお付き合いしましょう」

そういわれて、「あの、それは、違う……」と否定しようとする千鶴を宗治は腕をだして止める。

「次回来た時も必ず二人でムバラックをお迎えします。どうか気を付けて」

そういうと、ムバラックは搭乗ゲートへと消えていった。

振り返り手を振るムバラックに千鶴は大きく手をふり返していた。
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