ヒールの折れたシンデレラ
空港までムバラックを連れてきていた勇矢と一緒にシアトル系のカフェで休憩することにした。

目覚めてから何も口にしていない宗治と千鶴は連れ立ってカウンターのメニューを見ている。

「常務はいつもと一緒で酸味が強いのでいいですか?私注文しますから席についていてください」

自分の好みのコーヒーを把握していることに、彼女が秘書になってからの時間の経過を感じた。

「瀬川は?ミルクとクリームたっぷりの頼むんだろう?あとは、シナモンロールあたりかな」

「ど、どうしして……」

図星をつかれたのか驚いている顔が面白い。

そんな二人のやり取りを後ろで勇矢が見ていた。

「なに“カレカノ”みたいなやり取りしてるんだ」

振り向くとそこにはいつもかけているメタルフレームの眼鏡を外して、こちらを興味深そうにみている“幼馴染”の顔をした勇矢が立っていた。

「高浜課長?」

宗治と勇矢の関係を知らない千鶴は不思議そうに勇矢の眼鏡なしの顔を見ている。

「さっさと注文して座ろう。お前たち二人がどうして昨日と同じ服なのか俺も興味がある」

そういった勇矢の瞳が鋭く輝いたように見えた。

注文を終えて席に着く。

千鶴の目の前には宗治が指摘したように、ホイップがのったカフェラテとシナモンロールがトレイにのせられていた。

宗治と勇矢の前にはコーヒー。

「で、どうしてお前ら二人昨日と全く同じ服なの?」

肘をついて直球を投げてくる。

それに動揺したのか千鶴は持っていたフォークを皿に落として結構な音を立てた。

「な……あ、あの、これ」

今日何回目の“しどろもどろ”だろうか、ここまで挙動不審にしなくてもいいのに。
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