ヒールの折れたシンデレラ
千鶴が五年生の時に亡くなった父親は、ある程度名の知れた画家だった。

画廊やデパートで個展を開けば毎回多くの人が訪れていた。

その相続権は千鶴にあったのだが、未成年ということで後見人を務めたのが仁恵たち夫婦。

そのころ小さな町工場を経営していた叔父は不況のあおりを受け仕事が激減、それに加えて仕事中の事故で体が不自由になり借金はどんどんかさんでいった。

それを知った千鶴は父の残してくれた財産を差し出した。

不自由なく育ててくれている美作夫妻に恩返しのつもりだった。

仁恵は反対したが、そうでもしなければ工場はあっという間に人手に渡ってしまったことだろう。

ただそれにも条件があった。

千鶴が大切にしている母親の絵だけは売らないでほしいということだ。

いくつかの絵を売り、遺産として残されたお金を次々と工場の経営に当てた。

やっと盛り返してくるというときに、お人好しの叔父が友達の保証人になり工場を閉鎖した。

そして、千鶴が売らないほしいと懇願した絵さえも売り払われてしまう。

風景画専門の父が描いた数少ない人物の絵。

それはかなりの値段で取引されると誰かに入れ知恵され叔父が売ってしまった。

それまでは遺産について何も言わなかった千鶴だったが、母の絵だけは特別だった。

それを売ってしまった叔父を初めてなじった。
< 65 / 217 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop