ヒールの折れたシンデレラ
そしてその最中に叔父が心臓発作を起こしたのだ。

そして病院に運ばれ叔父はそのまま一度も自宅の玄関をくぐることはなかった。

葬儀の時に千鶴はあふれそうになる涙をこらえた。

涙をすする仁恵の背中と、肩を震わせる煌太をみて自分は涙を流す立場にはないと。

自分さえこの家に来なければ叔父は無理して工場を続けなかったかもしれない。

自分があの時叔父を責めなければ、叔父はいまでも食卓で大好きな日本酒を飲んでいたかもしれない。

責めたときの叔父のすまなさそうな顔が今でも脳裏から離れない。叔父はどうにかして取り戻してくれると言ったのに。

なおも叔父を責めた自分を千鶴は今でも許せずにいた。

そして仁恵と煌太があの絵がいまだに千鶴のもとに戻ってきていないことに責任を感じていることも知っている。

あの絵がもし千鶴のもとに戻ってくれば幾分か仁恵と煌太の罪悪感もぬぐえるのではないか?

千鶴は常々そう思っていた。そしてそのチャンスが今だ。

会長室の奥の部屋に飾られていたのは、千鶴の父が書いた母の絵。

折鶴を折る母はまぶしいほどの笑顔をいつでも向けてくれている。

千鶴の名前の由来も母がいつも折っていた千羽鶴からきたものだ。

一年以内に宗治を結婚させることができれば千鶴の思いがかなう。

無理は承知だが、千鶴はどうしても自分のためにも叔母たちのためにもあの絵を取り戻したかった。

だから、いまだ胸にあるもやもやなど気にしている場合ではない。

胸に渦巻く澱みの理由など知らなくてもいい。

千鶴は自分にそう言い聞かせた。
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