ヒールの折れたシンデレラ
「常務、今お帰りですか？」

夕方の艶香とのキスを思い出して思わず視線をそらす。

すると千鶴質問には答えずに反対に質問される。

「さっきの男は誰？」

「は？」

いきなりの質問に驚く。

先ほど煌太と一緒にいたところを見られていたのだろう。


「あぁ、いい。別に答えなくて。プライベートなこと聞いて悪かった」

返事をしようとしていた千鶴の言葉を宗治が遮る。

「珍しく定時にあがったと思ったら、男と会うためだったのか。あいつは知ってんの？君が結婚する気ないってこと。それとも遊び？」

普段はしない棘のある言い方と言葉に千鶴はカチンとくる。

「プライベートなことなのでお答えしたくありません。そもそも常務には関係のないことですから」

そう答えてエレベーターホールへ向かおうとすると、エレベーターがあき華子が降りてくる。

「あら、瀬川さん。お帰りになったと聞いていたのに」

華子はちらりと視線を千鶴にむけてすぐに宗治のほうを見る。

「常務お待たせして申し訳ありません」

そういいながら駆け寄っていく。

（自分だって後藤さんの次は三島さんじゃない）

背後から華子の楽しそうな声が聞こえる。

エレベーターの階数表示を見ながら千鶴の心のよどみが色濃くなっていくのを感じた。

そしてそれを感じるときはいつも常務の態度や言葉が原因だった。

このままいけば心の中に色々なことが渦巻きそうだった。

頭の中から宗治の存在を消すことに集中した。

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