ヒールの折れたシンデレラ
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「ごちそうさまでした」
宗治にランチのお礼を言って、デスクへと戻る。
久しぶりにゆっくりと宗治と会話をしたような気がする。
顔を見る回数は以前と何ら変わらなかったが、仕事以外の会話を交わすことなどほとんどなかった。
それは千鶴が意図してそうしてきたものだ。
宗治と一緒にいると、自分ではコントロールできない、黒い澱みが湧き出ることがあった。
一度それが体を駆け巡ると仕事に集中できなくなりそうで今までできるだけ避けてきたのだ。
あの日のことを直接謝られたわけではない。
しかしあれ以来あの話をしてくることも咎めるような口調になるようなこともなかった。
秘書と上司の関係に戻った。ただそれだけ。
だが千鶴にとってもわざと宗治と距離をとること自体は好ましくない状況だっただけに宗治の気遣いがうれしかった。
悩みが一つ解決して、少し心が軽くなる。
もう一つの悩みについては明確な相手があることじゃない。時間の解決を待つしかなかった。