ヒールの折れたシンデレラ
「……千鶴?」

右の眉をピクリと動かして冷たい視線をなぜか千鶴に向ける。

「へ、変なこと言わないでください。仕事なら終わらせてます」

反論する千鶴の腕を軽く引き、宗治は自分のほうに千鶴を引き寄せる。

「急に必要な書類ができた。準備してくれ」

「なんの書類ですか」

「日仲建設の……」

「あの資料なら、すでにサーバーにアップしてあります申し訳ありませんがご自分でご準備ください」

このくらいのことなら宗治はいつも自分でやっている。

「さっき見たけどわからなかった。すぐにプリントアウトしてくれ」

「はぁ?いつもの共通ファイルですよ――」

喰ってかかろうとした千鶴を煌太が止めた。

「千鶴、仕事だし仕方ないよ。急に誘った俺も悪かったし。行っておいで」

「行っておいで……」

またもや煌太の言葉に宗治がなにか引っかかったようだ。

「え……でも」

渋る千鶴

「理解のある彼だ。彼がいいと言っている。さぁ頑張って働いてくれ」

人の悪い顔で黒い笑顔を浮かべる宗治を千鶴は軽く睨む。

「ごめんね煌太兄ちゃん」

申し訳なさそうに眉を落として謝る千鶴の頭を煌太がなでる。

「がんばっ--」

「さあ、行くぞ」

煌太の言葉がまだ終わっていないのに腕をぐっと引っ張られ、社内へと引き戻される。

煌太は笑顔で手を振ってくれている。千鶴も何とか手を振って煌太と別れた。
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