ヒールの折れたシンデレラ
不思議に思っていると、ドアをノックする音が聞こえる。

「どうぞ」

「失礼します」

そういいながら部屋に入ってきたのは勇矢だ。

「あ、瀬川さんでしたか?明かりが見えたもので……遅い時間にどうかされましたか?」

そういわれて千鶴が腕時計を確認する。

「あっ!もうこんな時間!常務お話相手は課長にチェンジで」

そういうとバックをつかみ出口へ向かう。

「遅いから送る」と席を立つ宗治に「電車のほうが早いですから。ドラマに間に合わなくなちゃう」と言い残して走ってはいけない廊下にヒールの音を響かせた。

宗治はあっけにとられたとクスクスと笑いだした。

「楽しそうですね。彼女ずいぶん前に会社をでたはずですが」

「玄関前で男といちゃついてたから連れてきた」

「は?」

勇矢が普段出さないような声を上げる。

「俺のものを、取り返しただけだ」

「はぁ?」

なんでもないようなことのように話す宗治に勇矢が呆れる。

「それどういう意味があるかわかってやってんの?」

「意味?」

「わかってないならいい。お前ももう帰れよ」

「それが上司に言う言葉か?」

そんな会話を交わしながら二人とも帰路についた。
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