ヒールの折れたシンデレラ
枝豆を口にくわえて間抜けな返しをする千鶴に理乃は大きくため息をつく。

「アンタ今日本当は常務と食事に行きたかったんでしょ?だから家に帰りたくなくて私を呼び出した。違う?」

「違わない、と思う……」

「思う?」

「違わないです」

理乃の迫力に押されて言い直す。

「本当に何とも思ってなかったら、その園美って子に代わってほしいって言われてもこんな風にヤケ酒なんてあおらなかったと思うけど」

「でも、私と常務なんてありえないでしょ?婚約者候補が三人もいるし、それ以外にもたくさんの女の人に囲まれてるのに」

「ありえるかありえないかで、話に“かた”がつくほど簡単な話じゃないと思うけど。単純な話だけどね」

「?」

簡単な話ではないけど、単純な話とはどういうことなのか。

「千鶴は相手が自分のことを好きだから好きになるの?」

首を左右に振る。

「報われない“好き”だって同じ“好き”じゃない。それを自分さえ否定するなんてその気持ちがかわいそうすぎるよ」

理乃の目に憂いが混じる。

「別に好きって気持ちぐらいみとめてあげてもいいんじゃない?」

まくし立てるように話をしてのどが渇いたのか、理乃もジョッキをぐいっと傾けた。

そしてジョッキをテーブルに置くとともに、目を大きく見開く。

いきなりだまって目を見開いた理乃の視線を千鶴も追うと、そこには息を切らせた宗治が立っていた。
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