ヒールの折れたシンデレラ
一度も千鶴を見ることなく店を出た宗治の背中に千鶴は声をかける。

「ごちそうさまでした。では失礼します!」

「はぁ?」

出口までの短い距離で千鶴が考えたのは“逃げること”だ。

アルコールの入った頭でまともに宗治とやりあうことは不可能と判断して、ここは一旦逃げてみようと。

支払をしてもらったのは申し訳ないけれど彼が怒ってここにきていることだけはわかった。

外にでて、声をかけて瞬時に駅に向かって走り出した。

「おい、こら待てっ!」

「ま、待てませんっ!!」

千鶴も自分でもなぜこんな状況になっているのかわからない。必死で走る千鶴に宗治が追いかけてくる。

後ろを確認しながら走っていると不意に右足が囚われる。

次の瞬間千鶴の体はガクンとなって地面に崩れ落ちた。

(転んじゃう!)

そう思って目をつぶったが想像していた痛みが襲ってくることはなく、耳元で軽く息切れした低い声が聞こえる。

「本当に君は!間に合ってよかったけど俺がいなかったら確実にこけてたからな」

千鶴を支えてくれたのは宗治の腕だった。
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