ヒールの折れたシンデレラ
「しかし、世話がやけるな。まさかこんなことになるとは」

宗治のあきれ返った声に千鶴は小さな声で「申し訳ございません」と謝ることしかできなかった。

今千鶴は宗治の背中におんぶされている。右手にはヒールの折れた靴を持って。

いきなり逃げたのに結局はこのざまだ。だったらあの時逃げなければよかった。

今更後悔してももう遅い。

ひたすら申し訳ない気持ちで宗治の広い背中に自身を預けていた。

「まぁ、いい。これでどう頑張っても君は俺から逃げられないからな」

クスクスと肩を揺らして笑う宗治の振動が背中にいる千鶴にも伝わってくる。

「さてと、今日のいいわけをたっぷりしてもらおうか」

チラリと千鶴を振り返る。

「あの、わかりましたからどこかにおろしてください」

「どこに?靴もないのに?逃げられても困るしこのまま話して」

あきらめて宗治の背中で千鶴は話始めた。

「遠山さんから、常務と食事に行くなら代わってほしいって言われて」

「だろうな。店で待ってたら現れたのが彼女で驚いた」

「彼女、常務に対して真剣なんです。だから頼まれたら断れなくて」

「断れなくて、俺の気持ちも考えずに自分の代わりに彼女を寄越したんだ」

「常務の気持ち?」

「そう、まったく考えなかった?俺がどういう気持ちになるのか?」
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